May5

海角七号日文来信

00063776.jpg

1945年12月25日。
友子、太陽がすっかり海に沈んだ。これで、本當に台灣島が見えなくなっ てしまった。
君はまだあそこに立っているのかい?


友子、許しておくれ、この臆病な僕を。
二人のことを決して認めなかった僕を。
どんなふうに、君に惹かれるんだったっけ。
君は髪型の規則も破るし、よく僕を怒らせる子だったね。
友子。君は意地張りで、新しい物好きで、でも、どうしょうもないぐらい君に 戀をしてしまった。
だけど、君がやっと卒業した時、僕たちは、戦爭に敗れた。
僕は敗戦國の國民だ。貴族のように傲慢だった僕たちは、一瞬にして、罪人の くび枷を科せられた。
貧しい一教師の僕が、どうして民族の罪を背負えよう?
時代の宿命は時代の罪。
そして、僕は貧しい教師に過ぎない。
君を愛していても、諦めなければならなかった。


-----------------------

三日目。
どうして君のことを思わないでいられよう。
君は南國の眩しい太陽の下で育った學生。
僕は雪の舞う北から海を渡ってきた教師。
僕らはこんなにも違うのに、何故こうも惹かれあうのか?
あの眩しい太陽が懐かしい。
暑い風が懐かしい。
まだ覚えているよ。
君が赤蟻に腹を立てる様子。
笑っちゃいけないって分かってた。
でも、赤蟻を踏む様子がとても綺麗で、
不思議なステップを踏みながら、踴っているようで、
怒った身振り、激しく軽やかな笑い聲。
友子。
その時、僕は戀に落ちたんだ。

------------------------------

強風が吹いて、台灣と日本の間の海に、僕を沈めてくれ「れ」ば良いのに。そ うすれば、臆病な自分を持て余さずに済むのに。
友子。
ただ數日の航海で、僕はすっかり老け込んでしまった。
潮風が連れてくる泣き聲を聞いて、
甲板から離れたくない、
寢たくもない。
僕の心は決まった。
陸に著いたら、一生、海を見ないでおこう。
潮風よ、
何故、泣き聲を連れてやって來る?
人を愛して泣く、
嫁いで泣く、
子供を生んで泣く。
君の幸せな未來図を想像して、涙が出そうになる。
でも、僕の涙は潮風に吹かれて、溢れる前に乾いてしまう。
涙を出さずに泣いて、僕は、また老け込んだ。
憎らしい風、
憎らしい月の光、
憎らしい海。


12月の海は何處か怒っている。
恥辱と悔恨に耐え、騒がしい揺れを伴いながら、僕が向かっているのは故郷な のか。それとも、故郷を後にしているのか。

--------------------------------

夕方、日本海に出た。
晝間は頭が割れそうに痛い。
今日は濃い霧がたちこめ、晝の間、僕の視界を遮った。
でも、今は星がとても綺麗だ。
覚えてる?
君はまだ中學一年生だった頃、
天狗が月を食う農村の伝説を引っ張り出して、月食の天文理論に挑戦したね。 君に教えておきたい理論がもう一つある。
君は、今見ている星の光が、數億光年の彼方にある星から放たれてるって知っ てるかい?
わぁ~、
數億光年前に放たれた光が、今僕たちの目に屆いているんだ。
數億年前、台灣と日本は一體どんな様子だったろう。
山は山、
海は海。
でも、そこには誰もいない。
僕は星空が見たくなった。
虛ろやすいこの世で、永遠が見たくなったんだ。

台灣で冬を越すライギョの群れを見たよ。
僕はこの思いを一匹に託そう。
漁師をしている君の父親が、捕まえてくれることを願って。
友子。悲しい味がしても食べておくれ。
君には分かるはず。
君を捨てたのではなく、泣く泣く手放したということを。
皆が寢ている甲板で、低く何度も繰り返す。
捨てたのではなく、泣く泣く手放したんだと。


夜が明けた。
でも、僕には関係ない。
どっちみち、太陽は濃い霧を連れてくるだけだ。
夜明け前の恍惚の時、年老いた君の優美な姿を見たよ。
僕は髪が薄くなり、目も垂れていた。
朝の霧が舞う雪のように僕の額の皺を覆い、激しい太陽が君の黒髪を焼き盡く した。
僕らの胸の中の最後の餘熱は、完全に冷め切った。
友子、無能な僕を許しておくれ。


--------------------------------------------

友子。
無事に上陸したよ。
七日間の航海で、戦後の荒廃した土地にようやく立てたというのに、
海が懐かしいんだ。
海はどうして、希望と絶望の両端にあるんだ?
これが最後の手紙だ。
後で出しに行くよ。
海に拒まれた僕たちの愛。
でも、思うだけなら許されるだろう。
友子、僕の思いを受け取っておくれ。
そうすれば、少しは僕を許すことができるだろう。
君は一生僕の心の中に居るよ。
結婚して子供ができても、
人生の重要な分岐點に來る度、君の姿が浮かび上がる。
重い荷物を持って家出した君、
行き交う人混みの中に、ぽっつんと佇む君。
お金を貯めてやっと買った白のメリヤス帽をかぶって來たのは、人混みの中で
君の存在を知らしめる為だったのかい?
見えたよ。
僕には見えたよ。
君は、靜かに立っていた。

七月の激しい太陽のように、それ以上直視する事は出來なかった。
君はそんなにも靜かに立っていた。
冷靜に努めた心が一瞬熱くなった。
だけど、心の痛みを隠し、心の聲を飲み込んだ。
僕は、知っている。
思慕という低俗の言葉が、太陽の下の影のように、
追えば逃げ、逃げれば追われ、一生。

あ、虹だ。

虹の両端が海を越え、僕と君を、結びつけてくれますように。

-------------------------

君を忘れた振りをしよう。
僕たちの思い出が、渡り鳥のように、飛び去ったと思い込もう。
君の冬が終わり、春が始まったと思い込もう。
本當にそうだと思えるまで、必死に思い込もう。
そして、
君が永遠に幸せである事を、祈っています。

 


--EOF--

本篇文章已有0条评论